信託監督人とは
信託監督人とは、受益者が現に存する場合に、受益者のために自己の名をもって受益者の権利(一部を除く。)に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する人です。(信託法第132条)
1.信託監督人の選任
信託監督人は信託行為において選任することができ、その選任された者が承諾した場合に、信託監督人として就任することになります。
また、信託行為に信託監督人の定めがない場合や、信託監督人に選任された者がその就任を承諾しない場合などには、利害関係人の申立てにより裁判所が信託監督人を選任することができます。
なお、信託監督人は、受益者の権限行使を補完する存在であり、信託監督人が選任されていても、受益者は自らの権利を行使することが可能です。
2.信託監督人になれない人
信託法第137条により準用する同法第124条において、次に挙げる者は信託監督人になることができないとの定めがあります。
① 未成年者
② 当該信託の受託者
3.信託監督人の権限の範囲(信託法第132条)
信託監督人は、受託者を監督するために、信託法第92条各号の権利を行使することができますが、次の①~④の権利は、受益者自身が自己の権利を確保するための権利とされているため、信託監督人はこれらを行使できないとされています。
ただし、権限や監督方法は、信託行為に別段の定めによって原則自由に定めることができます。
(1)行使できない権限
① 受益権を放棄する権利
② 受益権取得請求権
③ 受益証券発行信託において自らが受益者であることの受益権原簿記載事項を記載した受益権原簿等の交付等の請求権
④ 受益証券を取得した受益者による受益権原簿記載事項を③の受益権原簿等に記載等することの請求権
(2)行使できる権限
① 裁判所に対する申立権
② 遺言信託における信託の引き受けの催告権(信託法第5条第1項)
③ 信託財産に属する財産に対する強制執行等・滞納処分に対する異議を主張する権利(信託法第23条第5項、第6項)
④ ③の請求に係る訴訟に要した費用を信託財産から支弁することの請求権(信託法第24条第1項)
⑤ 受託者の権限行使違反行為の取消権(信託法第27条第1項、第2項)
⑥ 受託者の利益相反行為の取消権(信託法第31条第6項、第7項)
⑦ 信託事務の処理状況についての報告請求権(信託法第36条)
⑧ 信託事務に関する帳簿等についての閲覧・謄写請求権(信託法第38条第1項、第6項)
⑨ 受託者の任務から生じた損失のてん補又は原状回復の請求権(信託法第40条)
⑩ 法人である受託者の任務から生じた損失のてん補又は原状回復の請求権(信託法第41条)
⑪ 受託者の行為の差止め請求権(信託法第44条)
⑫ ⑨⑩⑪の請求に係る訴訟に要した費用を信託財産から支弁することの請求権(信託法第45条)
⑬ 前受託者が新受託者が就任するまでの間にする信託財産の処分の差止め請求権(信託法第59条第5項)
⑭ 前受託者の相続人等・破産管財人がする信託財産に属する財産の処分の差止め請求権(信託法第60条第3項、第5項)
⑮ ⑬⑭の請求に係る訴訟について要した費用の支払い請求権(信託法第61条第1項)
⑯ 新受託者として指定された者に対する就任承諾の催告権(信託法第62条第2項)
⑰ 信託監督人として指定された者に対する就任承諾の催告権(信託法第131条第2項)
⑱ 受益者代理人として指定された者に対する就任承諾の催告権(信託法第138条第2項)
⑲ 受益権原簿の閲覧又は謄写の請求権(信託法第190条第2項)
⑳ 限定責任信託において受託者が給付可能額を超える給付を受益者にした場合の金銭のてん補又は支払いの請求権(信託法第226条第1項)
㉑ 受託者が受益者に対してした給付において欠損が生じた場合の金銭のてん補又は支払いの請求権(信託法第228条第1項)
㉒ 会計監査人の任務から生じた損失のてん補の請求権(信託法第254条第1項)
4.信託監督人選任の考え方
信託監督人を選任するかどうかは、受託者の能力や信用度、信託財産の内容や管理運用の複雑さ、受益者に成年後見人や任意後見人が選任されているのか、受益者代理人との比較検討などを行った上で判断する必要があります。
家族間で民事信託を利用する場合であれば、受益者の利益を損なうような行為をする受託者はそう多くはないと考えられますが、受益者が年少者・高齢者又は知的障がい者等で、受益者自身が監督権を行使することができない状態が想定される場合には、信頼できる家族や法律専門職を信託監督人として選任するという選択肢があります。
なお、法律専門職が信託監督人になる場合には、報酬が継続的に発生し、経済的負担が多額になることも考慮しておかなければなりません。
民事信託の目的は、信託行為によって委託者の“想い”を実現することにありますので、信託監督人を設置することにより、家族間で争いが発生したり、多額の費用が発生したりすることは回避しなければなりません。
信託監督人を選任しないことにする場合、受託者は委託者・受益者の当事者だけでなく、他の家族にも自らの財産管理状況を報告するなどして、理解を求めていくことをお勧めします。
一方、法律専門職による信託監督人は、受託者を監督・指導する立場ですが、受託者と対立する当事者ではありません。
受託者の重要な判断に対するアドバイスや、委託者の想いが長期にわたり実現されているかを客観的立場から見届けてくれますので、受益者と受託者の双方、さらには家族全体に安心感をもたらすことが多いと思われます。
また、信託監督人の業務をいつから開始するかということも検討する必要があります。
一般的には、信託契約締結時からスタートすることが多いですが、例えば、当初受託者である長男が、親である委託者の想いを十分に理解しているような場合には、信託監督人は不要と思われます。
一方で、第二受託者となるのが長男の妻や子であるような場合には、信託財産の管理に不慣れなところがあるので、信託監督人に業務を監督・指導してほしいということはあると思われます。こうした切り替わるタイミングで業務を開始するように設計することもできます。
また、信託財産の売却や寄付など、特定の案件のみ監督・指導をしてほしいというような場合も、都度の契約が可能です。
5.信託監督人の役割
信託監督人の役割は、信託行為で、原則自由に設定することができます。
(1)日常業務の確認(3ヶ月から半年毎)
① 受託者が管理する信託口口座の通帳の確認
② 受託者による入出金の管理が適正か、請求書・領収書が適正かの確認
③ 受益者に定期・不定期の資金給付がなされているか、受益者に困り事や不都合なことはないかの確認
(2)重要な財産の処分に関する確認(随時)
・ 信託不動産の売却等が適切に行われたかの確認
受託者が重要な財産を勝手に処分しないように、信託行為で「信託監督人の事前の同意を要す」旨の定めを置くことができます。
信託監督人の同意を得ないでした不動産の売却は、無効とすることはできませんが、この効果として、不動産登記簿の信託目録にも「信託監督人の同意を要す旨が記載」されることにより、取引関係者も認識でき、勝手な売却の歯止めになります。
6.信託監督人の任務の終了 (信託法第134条)
信託監督人の任務は、信託の清算が結了した場合のほか、次の事由によって終了します。
① 信託監督人の死亡
② 信託監督人が後見開始又は保佐開始の審判を受けたこと
③ 信託監督人(破産手続開始の決定により解散するものを除く。)が破産手続開始の決定を受けたこと
④ 信託監督人である法人が合併以外の理由により解散したこと
⑤ 信託監督人の辞任
⑥ 信託監督人の解任
⑦ 信託行為において定めた事由

