受益者代理人とは
受益者代理人とは、その代理する受益者のために当該受益者の権利(損失てん補責任等の免除に係るものを除く。)に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する人です。(信託法第139条)
「受益者の権利」とは、「信託に関する意思決定をする権利」や「受託者を監督する権利」です。
受益者代理人が、受益者に代わって、これらの権利を行使します。
1.受益者代理人の選任(信託法第138条)
受益者代理人は信託行為において選任することができ、その選任された者が承諾した場合に、受益者代理人として就任することになります。
なお、受益者代理人の選任は、信託監督人などの選任と異なり、裁判所が選任することは認められていませんので、信託行為において選任する旨の定めを置く必要があります。
参考:信託監督人とは
2.受益者代理人になれない人
信託法第144条により準用する同法第124条において、次に挙げる者は受益者代理人になることができないとの定めがあります。
① 未成年者
② 当該信託の受託者
3.受益者代理人の権限の範囲(信託法第139条)
信託監督人などの制度は、全ての受益者のための制度であるのに対し、受益者代理人は、その代理する受益者のための制度です。
複数の受益者に1人の受益者代理人を選任することもできますし、1人の受益者に2人以上の受益者代理人を選任することもできます。また、受益権の種類が異なる場合には、その種類ごとに受益者代理人を選任することもできます。
なお、受益者代理人が選任された場合、受益者本人は、信託法第92条(信託行為の定めによる受益者の権利行使の制限の禁止)に定められた権利以外の権利を行使できなくなりますので注意が必要です。
4.受益者代理人選任の考え方
受益者代理人を選任するかどうかは、受託者の能力や信用度、信託財産の内容や管理運用の複雑さ、受益者に成年後見人や任意後見人が選任されているのか、信託監督人との比較検討などを行った上で判断する必要があります。
特に、受益者が年少者・高齢者又は知的障がい者等で、受益者自身が監督権を行使することができない状態が想定される場合には、信頼できる家族や法律専門職を受益者代理人として選任するという選択肢があります。
また、受益者代理人は、「信託行為に選任する旨の定め」さえあれば、受益者代理人の業務内容や開始の時期は、委託者と受託者の合意により柔軟に定めることができますので、「信託契約の変更」など状況の変化への対応も可能になります。
なお、受益者代理人にも信託行為に報酬を受ける旨の定めを置くことができます。
5.受益者代理人の任務の終了(信託法第141条)
受益者代理人の任務は、信託の清算が結了した場合のほか、次の事由によって終了します。
① 受益者代理人の死亡
② 受益者代理人が後見開始又は保佐開始の審判を受けたこと
③ 受益者代理人(破産手続開始の決定により解散するものを除く。)が破産手続開始の決定を受けたこと
④ 受益者代理人である法人が合併以外の理由により解散したこと
⑤ 受益者代理人の辞任
⑥ 受益者代理人の解任
⑦ 信託行為において定めた事由