民事信託口座の開設
親の信託財産に銀行預金がある場合や、賃貸アパートなどを信託財産として、受託者である子が受益者に収益を分配するような場合には、受託者個人の口座とは分別して管理できる銀行口座が必要になります。
1.信託口口座
信託口口座とは、受託者である子が財産を管理する場合に、個人の財産と分別するために開設できる特別な口座で、例えば「委託者○○・(信託口)・受託者○○」などの名称で開設されます。
(1)信託口口座のメリット
- 親が認知症になった場合でも受託者である子は信託口口座から支出できる
受託者名義の口座であるため、委託者の認知症に関わらず、日常生活費の送金など、信託契約の目的に従って、受託者の判断で入出金が可能です。 - 委託者、受益者及び受託者の死亡により口座が凍結されない
一般的に、個人の口座は銀行が本人の死亡を知るとその時点で凍結されます。
しかし、信託口口座は委託者・受益者個人の財産ではないので、口座を凍結されることはありません。
また、受託者が死亡してしまった場合でも、受託者の相続財産にはなりません。 - 委託者・受託者個人の債権者が信託口口座を差し押さえできない
信託財産は受託者の名義になるので委託者が倒産しても影響を受けません。
また、信託財産は受託者の相続財産にはならず、さらに受託者の債権者による差し押さえが禁じられているため、受託者の倒産の影響を受けません。
(2)福島県内の現状
弊所がある福島県においては、信託口口座開設を受け付けてくれる金融機関(本・支店)が少ないのが現状で、大東銀行、七十七銀行、山形銀行、秋田銀行が開設できます。
ただし、信託契約書作成は、山形銀行は、提携の士業が、秋田銀行は、提携の山田エスクロー信託が行うことになっています。
全国的に見た場合、 三井住友信託銀行(民事信託サポート)やオリックス銀行(eダイレクト預金〈家族信託預金特約〉)があります。
(3)信託口口座開設に必要な書類等
- 事前相談
- 受託者の本人確認書類
- 信託契約書(公正証書)
- 届出印
- 委託者と受託者の関係が分かる資料・・・など
2.信託専用口座
民事信託の制度はまだスタートしてから日が浅く、信託口口座開設についても金融機関側でそれほど対応しているわけではありません。
利用方法や立地の利便性に問題があったり、口座開設の費用や口座開設の条件があり、これらを負担に感じる人もいます。
近隣の普段から取引のある金融機関でしたら、通常の契約で受託者として分別管理をするための信託専用口座を開設することができます。
信託口口座のような安心なシステムではありませんが、個人口座であるため、クレジットカードやインターネットバンキングも行えるという使い勝手の良さが大きなメリットです。
この場合、信託契約書のなかで金融機関、支店、口座番号などを明確に特定しておくことは必須です。(実務上は、対外的に信託財産であることがわかりませんので、法律上や税務上の問題が起きないようにするため、信託契約書のなかで金融機関、支店、口座番号、口座名義まで明記して活用しています。)
3.民事信託口座の開設
「信託口口座」にするか「信託専用口座」にするかは、それぞれのメリットとデメリットを理解し、どちらが信託契約の目的に沿った利用ができるかを判断しましょう。