受託者の信託報酬
民事信託における受託者は、次の場合を除き、基本的に無報酬で信託事務を行うことになります。
①信託財産から報酬を受けることができる旨の定めがある場合(信託法第54条第1項)
②信託の引き受けについて商法第512条(※)の適用がある場合
③受益者との合意により、受益者から報酬を受け取る場合
※商法第512条
商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。
つまり、受託者が専門職など商法の適用がある場合を除き、報酬に関する定めがない場合には、受託者は報酬を受け取ることができませんが、受益者との合意によって受益者から報酬を受け取ることができます。
なお、民事信託の受託者として、株式会社等の法人、弁護士、司法書士、行政書士、税理士等の専門職が就任すること自体は規制されていませんが、信託報酬を得ることは信託業法違反となります。
民事信託では、子が受託者になる場合が多く、親のために、ひいては家族のために、責任をもって財産管理を行うことになります。
その負担を周りの家族が理解して信託報酬を設定すると、円満な相続につながると思われますります。
1.信託報酬の設定
民事信託における信託報酬の額に、法的な規制や相場があるわけではありません。
委託者と受託者が合意し、信託契約書にその旨の定めがあれば、いくらでも構いません。
ただし、信託財産や業務量と比較して、あまりにも高額な信託報酬を支払うような場合には、税務署から「みなし贈与」として課税される可能性もあるので、総合的に考えてバランスの取れた報酬額を決める必要があります。
報酬額の決め方としては、毎月決められた金額を設定する「定額報酬」の場合と、信託財産から得られる利益の一定割合とする「定率報酬」の場合があります。
(1)定額報酬の場合
受託者は成年後見人と同じような役割を果たすことから、職業後見人に対する報酬基準の相場を参考に、月額2万~6万円程度にすることが考えられます。
(2)定率報酬の場合
収益物件を信託財産に入れて賃貸管理まで任せる場合は、定率報酬を採用し、不動産管理会社に払う管理委託手数料が参考になります。
この場合、受託者が賃貸物件を管理するわけですから、本来であれば不動産管理会社に支払うはずだった管理委託手数料を受託者に支払うという考え方で、毎月の賃料収入の5~10%を信託報酬として設定することが考えられます。
※この賃貸管理を管理会社に任せたままで、この定めをすると管理費用の二重取りになるので注意が必要です。
2.「信託報酬」は生前贈与の代替として機能する
信託財産から受託者へ「贈与」することは禁止されていますが、信託報酬については、信託契約書に定めて支払うことにより、信託財産を合法的に減らすことができ、生前贈与の代替としての機能を果たすことができます。
3.雑所得として確定申告が必要な場合がある
受託者が受け取る信託報酬は受託者の所得となり、税務上の「雑所得」となります。
そのため、所得として給与所得者が20万円以上受領すると、受託者個人として確定申告をする必要があります。
国税庁HP:給与所得者で確定申告が必要な人