相続税対策としての生前贈与は得か?注意点は・・

相続に関する法律「相続法」は、順次改正されてきていますが、平成27年に行われた改正で、基礎控除額が大幅に引き下げられました。
その結果、「お金持ちの人からちょっとお金持ちの人」まで、より多くの人に相続税が適用されることとなり、注目を集めるようになりました。

同時に、相続時の節税対策として「生前贈与」へも関心も高まっています。この生前贈与をうまく利用することができれば、相続税をかなりの割合で抑えることができます。

財務省:相続税の改正に関する資料相続税の課税件数割合及び相続税・贈与税収の推移 

Ⅰ 生前贈与と相続の違い

「生前贈与」は財産を渡す人が生きている間に贈ることをいい、「相続」は財産を渡す人が亡くなった後に、財産を相続人が引き継ぐという違いがあります。

どちらも財産を移転させる点では同じですが、課税される税金は、「贈与税」と「相続税」で異なります。

一般的には、財産を取得した額が同額であれば、贈与税の方が相続税よりも高い税率が設定されています。

贈与税率(特例税率)相続税率
基礎控除後の課税価格税率控除額基礎控除後の法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
200万円以下10%1,000万円以下10%
400万円以下15%10万円3,000万円以下15%50万円
600万円以下20%30万円5,000万円以下20%200万円
1,000万円以下30%90万円1億円以下30%700万円
1,500万円以下40%190万円2億円以下40%1,700万円
3,000万円以下45%265万円3億円以下45%2,700万円
4,500万円以下50%415万円6億円以下50%4,200万円
4,500万円超55%640万円6億円超55%7,200万円
・特例税率:20歳以上の子や孫への贈与
・基礎控除:「財産をもらう人1人当たり年間110万円」まで無税
基礎控除:「3,000万円+600万円×法定相続人の数」まで無税

参照:国税庁HP 贈与税の税率 相続税の税率

与税は、相続税に比べ基礎控除額が低く、さらに税率が高くなっています。これは、相続税の課税逃れのために生前に贈与されないようにするためです。しかし、贈与税は、人と時期を分けることにより節税が可能です。その結果、相続税の節税になります。

Ⅱ 基礎控除額の範囲での生前贈与

基礎控除は、財産をもらう人1人当たり年間110万円が設定されています。つまり、年間110万円以内の贈与については贈与税が課税されません。

例えば、父親が2人の子供に1人あたり110万円の贈与を「10年間」行った場合はどうでしょうか。

110万円×2人×10年間=2,200万円になり、総額2,200万円分の財産について贈与税を払うことなく移転することになります。

もちろん、移転した財産には相続税が課税されることはありません。

贈与をする相手が少ないほど、長い期間をかけて贈与しなければ効果が薄いため、早めから相続税対策を考える必要があります。

Ⅲ 基礎控除額を超えての生前贈与

まず自分の財産について何がどれだけあるのかを把握します。そして法定相続人等を想定し、配偶者の税額軽減等も適用した上で相続税額を計算してみると相続税について何%の税率が適用されるのかがわかります。

相続税の税率が適用される部分があれば、それより低い贈与税率で贈与できれば節税できることになります。もちろんより低い贈与税率が適用できる範囲で長年にわたって贈与していけばより多くの節税ができることになります。

具体例

  • 相続財産3億円(便宜上、全て金銭債権として計算)
  • 法定相続人が子2人(20歳以上)
  • 法定相続分で相続

子1人当たり:(相続財産30,000万円-基礎控除額4,200万円)÷2
=19,350万円→相続税の税率40%

①生前贈与をしなかった場合の相続税額
相続税額:(19,350万円×相続税率40%-控除額1,700万円)×2=12,080万円(2人分)

②生前贈与をした場合
・子1人当たり贈与税率30%以下になる上限1,110万円を贈与

a贈与税額:(1,110万円-基礎控除額110万円)×贈与税率30%-控除額90万円)×2
=420万円(2人分)

・子1人当たり取得金額:(相続財産30,000万円-贈与額2,220万円-基礎控除額4,200万円)÷2=11,790万円

b相続税額:(11,790万円×相続税率40%-控除額1,700万円)×2=6,032万円(2人分)

支払うべき税総額(a+b)=6,452万円

生前贈与をしなかった場合の相続税12,080万円に対し、2人の子供に1人当たり1,110万円の贈与を行った場合は、420万円の贈与税が課税されますが、相続税は6,032万円まで縮減され、支払うべき税総額で6,452万円となります。

生前贈与は財産が多くある人(相続税率が高くなる人)ほど、有効な相続税対策になり、早めから行うことで何年間も継続的に行うことができ、より効果的な節税が期待できます。

Ⅳ 生前贈与をする際の注意点

贈与は原則「双方の合意で成立」しますので、口約束であっても可能ですが、特に毎年贈与を続けていく場合には、贈与契約書をきちんと取り交わし、公証人役場で確定日付を取っておくことをお勧めします。

また、毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受けることを契約したような場合には、契約をした年に、定期金給付契約に基づく定期金に関する権利の贈与を受けたものとして贈与税が課税されますので注意が必要です。

1.財産が相続税の基礎控除未満の場合

通常は、生前贈与を行うことで将来の相続税を減少させることができますが、生前贈与を行わない方がいい場合もあります。

財産が相続税の基礎控除未満(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の場合は、そもそも相続税が発生しないため生前贈与の必要がありません。

2.相続発生日から3年以内の生前贈与がある場合

相続などにより財産を取得した人が、被相続人からその相続開始前3年以内(死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間)に贈与を受けた財産があるときには、その人の相続税の課税価格に贈与を受けた財産の贈与の時の価額を加算されることになります。
また、その加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額は、加算された人の相続税の計算上控除されます。

被相続人から生前に贈与された財産のうち相続開始前3年以内に贈与されたもので、3年以内であれば贈与税がかかっていたかどうかに関係なく加算されます。
したがって、基礎控除額110万円以下の贈与財産や死亡した年に贈与されている財産の価額も加算されることになります。

■加算されない贈与財産の範囲
被相続人から生前に贈与された財産であっても、次の財産については加算されません。
①贈与税の配偶者控除の特例を受けている又は受けようとする財産のうち、その配偶者控除額に相当する金額
②直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた金額
③直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち、非課税の適用を受けた金額
④直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち、非課税の適用を受けた金額

3.不動産の贈与

土地を生前贈与する場合に、基礎控除分だけ贈与することは不可能であり、土地一筆を贈与する必要があります。そのため、高額な贈与税が発生するおそれがあります。

土地の持分を少しずつ何年間かにわたって贈与する方法もありますが、持分登記費用や贈与税申告書作成費用などの経費が発生します。

また、相続により不動産を取得した場合、不動産取得税は課税されませんが、生前贈与により不動産を取得した場合は不動産取得税が課税されることになります。

4.住宅取得等資金の贈与の特例と相続時の小規模宅地等の特例

(1)住宅取得等資金の贈与の特例

通常、1年間当たり110万を超える生前贈与には贈与税が課税されます。しかし、子供が住宅を購入するための資金援助であれば、年間110万円に加えて最大3,000万円まで贈与しても贈与税が課税されない特例があります。

あくまで住宅を新たに取得するための資金援助に限定されるため、既存の住宅ローンの返済のための資金援助はこの特例の対象とはなりません。

■主な条件と注意点

  1. 贈与を受けるのは子供か孫であること(直系であることが条件です。例えば妻の両親から夫が贈与を受ける場合などには、この特例は使えません。)
  2. 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅を新築や取得していること
  3. 贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住すること又は遅滞なく居住することが見込まれること等
  4. 非課税となる一定額が定められており、消費税を10%負担している人は最大3,000万まで非課税です
  5. 贈与税がゼロ円でも必ず申告が必要
    住宅取得等資金の非課税の特例を使う場合に、非課税額の範囲内だったとしても必ず贈与税の申告が必要です。

  申告期限は、贈与した年の翌年2月1日から3月15日までです。
  この期限に1日でも遅れたら非課税にはなりませんので注意が必要です。

(2)相続時の小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例とは、被相続人の自宅の土地や、事業に使っていた土地を相続する場合に、一定の条件を満たせば、土地の評価額を330㎡まで最大80%減額してくれる制度です。

例えば、土地の評価額が1億円の場合、80%減額され2,000万円になり、相続税が大きく軽減されます。

その条件とは、「自宅を相続する人が、配偶者もしくは亡くなった人と同居をしていた親族であること」というものです。

原則は、配偶者か同居親族だけなのですが、もしその両者とも存在しない場合には、「亡くなった人と別居していて、かつ、3年以上自分の持家に住んでいない親族」も特例を受けることができます。わかりやすく言うと、賃貸暮らしをしているお子さんです。

つまり、亡くなった人に配偶者や同居親族がいない場合で、別居の子に住宅取得等資金の特例により自宅を持たせてしまうと小規模宅地等の特例が利用できなくなってしまいますので、生前贈与か相続かはよく検討する必要があります。

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