相続において考慮すべきこと

相続における遺産分割は、相続人の合意があればいかような分割も可能です。
また、遺言においては、「・・・に・・・を相続させる。」と記載することにより、遺産分割協議の対象外とすることもできます。

これから遺言書を作成しようとする場合は、遺産を相続人にどのように残してやればよいか、改正民法により創設された配偶者居住権や、法定相続分遺留分を考慮するのはもちろん、節税については、特に考慮する必要があります。

なお、自筆証書遺言については、法務局での保管制度が創設されるとともに、本文以外の財産目録はパソコンによる作成でもよく、土地建物は登記簿のコピー、預貯金は通帳のコピーでもよくなりましたので、低費用で簡単に作成することができます。

また、最近話題の「民事信託(家族信託)」も特に認知症対策として、信じて託せる家族がいる場合は選択肢の1つです。

Ⅰ 相続・遺贈の相続税

1.相続税の計算フロー

①「相続財産の把握・評価」→②「相続財産の合計額に対する相続税総額の計算」→③「相続人ごとへの割り当て」

(1)相続税の基礎控除

3000万円+600万円×法定相続人の数
法定相続人3名の場合、相続財産4800万円までは無税です。

(2)相続財産の把握・評価

相続税の対象となる財産を把握し、これを金額に評価(「※プラスの財産-マイナスの財産」=課税価格)します。
※みなし相続財産(死亡保険金・死亡退職金)も課税対象

2.土地の評価方法

(1)評価単位

宅地の評価は、登記されている「1筆」ごとに行うのではなく、利用の単位となっている1画地の宅地ごとに、実際の地目や面積に応じて行います。

例えば自宅が2筆の土地にまたがっている場合、2筆を1つの画地として評価します。

(2)宅地の評価方法

宅地の評価方法には、路線価方式と倍率方式があります。
いずれを採用するかは自ら任意に選択するのではなく、所在地ごとに国税局長が指定しています。

①路線価方式

路線価図は国税庁のウェブサイトで公開されており、誰でも閲覧が可能です。
国税庁 :財産評価基準書 路線価図・評価倍率表こちら

  1. 路線価方式による宅地の評価を行うには、国税庁 財産評価基準書 路線価図・評価倍率表にアクセスし、宅地が存在する都道府県名をクリックします。
  2. 次に、「路線価図」をクリックし、宅地が存在する市区町村名をクリックします。
  3. そうすると地名の一覧がでてくるので、宅地が存在する地名の右の路線価図ページ番号をクリックします。
  4. 路線価図ページ番号が複数に別れている場合は、それぞれクリックして宅地の接する道路が掲載されている路線価図を探してください。
  5. 所有する宅地に接する道路に路線価(道路ごとに付された1㎡あたりの標準的な価額をいいます。)が付されている場合は、その路線価に宅地の地積を乗じた金額が評価額の概算となります。
  6. なお、路線価図の価額は千円単位です。100と書いてあれば、1㎡当たり10万円ということです。
  7. 土地の形状により、ここから減額又は増額を行いますが、評価額の概算を知る上ではこの金額で十分です。(なお、宅地が複数の路線価に接している場合には、一番高い路線価に地積を乗じた金額を評価額の概算とすると良いでしょう。)

②倍率方式

  1. 田舎の土地などでは路線価が付されていない土地があります。
    そのような土地については倍率方式により評価します。
  2. 路線価が付されていない場合は、路線価図のページ番号の一覧ページに戻り、「この市区町村の評価倍率表を見る」をクリックします。
  3. そうすると、五十音順に町名、土地の地目ごとに「1.1」や「2.0」などの数字が並んでいます。
    この1.1や2.0が国税局長の定めた倍率です。
  4. 倍率方式では、(固定資産税評価額×国税局長の定めた倍率)という計算式により相続税評価額を算定します。
  5. なお、固定資産税評価額の確認方法ですが、固定資産税の納付書と一緒に土地や家屋の評価明細が添付されており、その明細に「価格」又は「評価額」と記載されている金額が固定資産税評価額となります。

3.家屋の評価方法

固定資産税評価額が家屋の評価額となります。

4.相続税額の計算

(1)課税遺産総額の計算

(例)相続人:妻・長男・長女、プラスの財産:2億円、マイナスの財産:2千万円
課税遺産総額=課税価格(2億円-2千万円))-基礎控除額(4800万円)=1億3200万円

(2)相続税総額の計算

・妻  1億3200万円×1/2=6600万円
・長男 1億3200万円×1/4=3300万円
・長女 1億3200万円×1/4=3300万円

(3)相続税額の計算

上記基礎控除後の相続額をそれぞれ当てはめて、相続税総額計算します。

・妻  6600万円×30%-700万円=1280万円
・長男 3300万円×20%-200万円=460万円
・長女    3300万円×20%-200万円=460万円 

相続税総額2200万円

国税庁:相続税の計算こちら

(4)各相続人への割り当て

総額の計算では、各相続人が法定相続分通りに財産を取得したものとして税額を計算しましたが、相続税の総額を各人が実際に取得した財産の割合に応じて配分され、各人が負担することとなります。

Ⅱ 配偶者控除の活用

1.被相続人の配偶者が遺産を相続した場合に税額を控除

  • 取得した遺産が1億6000万円までであれば、相続税は課税されない。
  • 1億6000万円を超えても配偶者の法定相続分までであれば、相続税は課税されない。

国税庁:配偶者の税額の軽減こちら

2.要件

  • 戸籍上の配偶者であること。
  • 相続税の申告期限までに遺産分割が完了していること(10ヶ月以内)。
  • 相続税の申告書を税務署に提出すること。
    配偶者控除を受けた結果、納付する相続税がゼロになった場合でも、申告書は提出
  • 財産隠しをしていないこと。

3.配偶者控除の計算式

相続税の配偶者控除は、受け取った遺産の額をもとに計算した税額から一定額を控除する税額控除です。

「Ⅰ」の相続税計算の場合を例にすると、
相続税総額は妻1280万円+子460万円×2=2200万円となります。

①法定相続分割合で遺産分割がされたとすると、

配偶者の相続税額は2200万円×1/2=1100万円
子(1人当たり)の相続税額は2200万円×1/4=550万円

②配偶者控除額の計算

相続税の総額×(「A課税価格の合計額のうち配偶者の法定相続分相当額と1億6000万円のいずれか多い金額」又は「B配偶者の課税価格」のうちいずれか少ない金額)÷課税価格の合計額

・A課税価格の合計額のうち配偶者の法定相続分相当額:1億3200万円÷2=6600万円
6600万円は1億6000万円に満たないので、1億6000万円に置き換える。

・B配偶者の課税価格
配偶者の課税価格:6600万円
1億6000万円より6600万円の方が少ないため、6600万円に置き換える。

・配偶者控除の額
相続税の総額2200万円×配偶者の課税価格6600万円÷課税価格の合計額1億3200万円=1100万円

4.各人の納付税額

・配偶者の相続税額
相続税の総額2200万円×遺産分割の割合1/2-配偶者控除の額1100万円=0(無税)

・子の税額(1人当たり)
相続税の総額2200万円×遺産分割の割合1/4=550万円

配偶者の納付税額はゼロ、子は1人当たり550万円納付することになります。

5.二次相続にも留意

1億6000万円もしくは法定相続分までであれば、配偶者が相続しても相続税は一切かかりませんが、ここで相続税が今回かからないから、“とりあえず”配偶者がすべての相続財産を相続しておこうというような安易な遺産分割をすると後々大きく損をしてしまう可能性があります。

今回の相続(一次相続)では相続税がかからなかったが、次回の配偶者の相続(例えば、配偶者が亡くなって子供のみが相続人となるようなケース)でかかってくる相続税の負担がその分以上に大きくなってしまうことがあるからです。

二次相続においては、一次相続に比べ相続人が1人減ることで、基礎控除が減り、さらには配偶者がもともと持っている固有財産もある場合には、適用される税率も上がってしまい、一次相続に比べより高い税率で相続税がかかってくることが想定されます。

次の例で、一次相続で法定相続分のとおりに遺産分割した場合と、配偶者の税額軽減を最大限活用して遺産分割した場合の相続税の金額を比較してみます。

・父が亡くなり、次に母が亡くなった場合
父の遺産相続(一次相続):遺産総額2億円、法定相続人は母と長男、長女(計3人)
母の遺産相続(二次相続):遺産は母が父から相続した財産と固有財産2000万円、法定相続人は長男と長女(計2人)

①一次相続で法定相続分のとおりに遺産分割した場合

一次相続では、法定相続分で相続します。母は1億円(1/2)、長男と長女はそれぞれ5000万円(1/4)ずつ相続します。
二次相続では、母が一次相続で相続した1億円と母の固有財産2000万円を、長男と長女が6000万円ずつ相続します。

② 一次相続で配偶者の税額軽減を最大限活用して遺産分割した場合

一次相続では、配偶者の税額軽減を最大限活用するため、母は1億6000万円、長男と長女はそれぞれ2000万円ずつ相続します。
二次相続では、母が一次相続で相続した1億6000万円と母の固有財産2000万円を、長男と長女が9000万円ずつ相続します。

それぞれの場合の一次相続と二次相続の相続税額は、次の表のとおりとなります。

一次相続で配偶者の税額軽減を最大限活用すると、一次相続では810万円得をしますが、二次相続まで含めた2回分の相続税の合計では770万円損をする結果になります。

Ⅲ 小規模宅地等の特例(相続・遺贈)の活用

「小規模宅地等の特例」とは、被相続人の自宅の土地や、事業に使っていた土地を相続する場合に、一定の条件を満たせば、相続税を計算する際の土地の評価額を最大8割引きにしてくれる制度です。

国税庁:小規模宅地等の特例こちら

1.自宅の場合

  1. 被相続人の居住の用に供されていた宅地等です。
  2. 自宅については、被相続人の自宅のほか、被相続人と生計を一にする親族の自宅(被相続人が無償で貸していた)も適用となります。
  3. 適用要件
    配偶者、同居の親族、被相続人と同居していない親族
    配偶者は、被相続人の自宅・被相続人と生計を一にする親族の自宅を相続により取得した場合は、無条件で小規模宅地等の特例の適用が受けられます。
    ・この場合、限度面積330㎡まで評価額が80%減額されます。

2.特定事業用宅地の場合

  1. 被相続人等の事業(貸付事業(駐車場業など)を除きます。)の用に供されていた宅地等です。
  2. これを、被相続人の親族が相続又は遺贈により取得し、その事業を引き継ぐ等の一定の要件を満たす場合には、限度面積400㎡まで評価額が80%減額されます。
  3. 事業用地の場合は、被相続人の親族がその土地を取得し、相続から10か月以内に事業を引き継ぎ、かつ、相続から10か月までは、その土地を所有し続け事業を継続していなければなりません。

(計算例)
500㎡で、評価額1億円の居住用宅地を、小規模宅地等の特例の適用を受けて相続した場合

  1. ・土地の面積が500㎡で、限度面積330㎡を超えていますので、特例を適用することができる土地の割合を計算します。  1億円-(1億円×330㎡÷500㎡×80%)=4720万円
  2. ・次に、特例が適用できる土地の評価額を計算します。
    土地の評価額は1億円ですが、特例を適用できるのは、その内の66%です。
    1億円に66%を掛けて、6600万円分の土地に対して特例を適用できることが分かります。
  3. ・特例によって減額される割合は、居住用宅地の場合は、80%です。
    減額される金額を計算するためには、特例が適用できる土地の評価額6600万円に80%を掛けると、特例によって減額される金額、5280万円が計算できます。
  4. ・土地の評価額は1億円ですから、1億円から減額される5280万円を差し引いた4720万円がこの土地の評価額となります。

Ⅳ 配偶者に対する生前贈与の検討

(1)内容

  • 配偶者から住宅又はその購入資金を贈与された場合に基礎控除110万円+2000万円を限度に課税価格から控除。
  • 同じ配偶者からの贈与は1回のみ適用。

(2)要件

  • 婚姻期間が20年以上。
  • 贈与された住宅または贈与された資金で購入した住宅に翌年3月15日までに入居し、その後も住み続ける。
  • 申告書を提出する。

生前贈与の配偶者控除は配偶者に贈与することで相続税を節約する方法です。
しかし、配偶者が不動産を贈与された場合、不動産取得税や登録免許税がかかることになりますし、そもそも配偶者は相続の際に最低1億6000万円の非課税枠が設けられていますので、不動産の生前贈与はあまり考えなくていいものと思われます。

(3)贈与税の計算

国税庁:贈与税の配偶者控除こちら

国税庁:贈与税の計算と税率(暦年課税)こちら

(税額表)

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