相続人がいないとき
ある人が死亡し相続が開始したが、相続人のあることが明らかでない場合があります。こうした状態を「相続人不存在」の場合といい、相続財産には法人格を与えられます。(民法第951条)
その場合、利害関係人又は検察官の請求により家庭裁判所は相続財産管理人を選任します。(民法952条第1項)
1.相続財産管理人選任の要件
- 相続が開始したこと
相続は被相続人の死亡により開始しますが、この死亡には被相続人の自然死のほか失踪宣告による擬制死亡も該当します。 - 相続人のあることが明らかでないこと(相続人不存在)
相続人となるべき者が戸籍上見当たらない場合のほか、相続人全員が相続放棄をし、又は相続欠格や推定相続人の廃除によって相続資格を失っている場合も含みます。
なお、戸籍上相続人はいるが、その相続人が行方不明や生死不明である場合には、相続人不存在には該当しません。この場合の財産管理は、不在者の財産管理又は失踪宣告の規定により処理されることとなります。
また、相続人はいないが、全財産が遺贈(包括遺贈)されている場合も相続人不存在にあたらないとされています。 - 相続財産が存在すること
相続財産管理人を選任するための手続要件として、相続財産に印紙代、広告費用、管理人報酬等の手続費用をかけて処理するだけの価値があることが必要です。
2.相続人不存在の確定手続き
手続 | 内容 | |
---|---|---|
1 | 相続財産管理人の選任請求 | ・利害関係人(債権者、受遺者、特別縁故者など)からの請求により、家庭裁判所が相続財産管理人を選任します。利害関係人からの請求がない場合は、検察官がこの請求をします。(民法第952条第1項) |
2 | 相続財産管理人の選任の公告 (1回目の相続人捜索の公告) | ・家庭裁判所は、相続財産管理人を選任した旨を官報掲載により公告します。((民法第952条第2項) |
3 | 相続債権者・受遺者に対する請求申出の公告 (2回目の相続人捜索の公告) | ・相続財産管理人は、1回目の相続人捜索の公告後2ヶ月以内に相続人が出現しなかった場合には、2ヶ月以上の期間を定めて、その請求申出をすべきこと、この期間内に請求申出がなければ精算から除斥される旨を官報掲載により公告します。(民法第957条第1項、第927条第2・4項) ・また、知れている債権者・受遺者に対しては個別に請求申出をするよう催告します。(民法第957条第2項、第927条第3項) |
4 | 相続財産の精算 | ・相続財産管理人は、請求申出期間が満了すると、相続債権者・受遺者に対して次の順序で精算を行います。 ①優先権を有する債権者 ②請求申出期間内に請求申出をした一般債権者及び知れている一般債権者 ③受遺者 (民法第957条第2項、第929条、第931条) |
5 | 相続人捜索の公告 (3回目の相続人捜索の公告) | ・2回目の相続人捜索の公告後2ヶ月以内に相続人が出現しなかった場合には、前記清算と並行して、相続財産管理人の請求によって、家庭裁判所は 6か月以上の期間を定めて相続権を主張すべき旨を官報掲載により公告します。(民法第958条) ・精算手続きを行って残余の財産がない場合には、公告を要しないとする扱いをする裁判所もあります。 |
6 | 相続人不存在の確定 | ・3回目の相続人捜索の公告後6ヶ月以内に相続人が出現しなかった場合には、相続人不存在が確定し、相続財産の精算が行われます。以降に請求申出をした債権者・受遺者はその権利を主張することができません。(民法第958条の2) |
7 | 特別縁故者に対する財産分与 | ・家庭裁判所は、相続人不存在が確定後3ヶ月以内に特別縁故者から財産分与の請求があった場合、相当と認めるときは、その清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができるとしています。(民法第958条の3) |
8 | 残余財産の国庫帰属 | ・特別縁故者の請求がない場合、又は特別縁故者へ分与してもなお残余財産がある場合にはそれらは国庫へ帰属することになります。(民法第959条) |
※ | 公告期間内に相続人が出現した場合 | ・相続人捜索の公告期間内に相続人が出現して、相続を承認した場合は、その段階で相続財産法人は消滅し、相続財産管理人の代理権も消滅します。(民法第955条、第956条第1項) |
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3.特別縁故者に対する財産分与
特別縁故者と認められるのは、
- 被相続人と生計を同じくしていた者
- 被相続人の療養看護に努めた者
- その他被相続人と特別の縁故があった者
とされています。
判例では、長期間生活を共にした内縁の妻、事実上の養子など、戸籍上の届出がないために民法上は相続権が認められない者、被相続人と実生活上密接な関係にありながら相続権を持たない従姉、長期間にわたり師弟関係にあった者などがあげられます。
このほか、法人も特別縁故者と認められています。
特別縁故者への財産分与の趣旨は、主として遺言制度を補充しようとするものとして、被相続人の生前に被相続人と縁故があった者に限られるとしています。
特別縁故者は法定相続人ではありませんが、遺贈によって取得したものとみなされて相続税がかかることになります。また、法定相続人とは異なるため、相続税法上適用される様々な控除が特別縁故者の場合は適用されません。
ただし、相続財産の総額が3,000万円以内であれば相続税の課税対象外ですので心配する必要はありません。