相続権を失う相続欠格と相続人廃除
相続人となる資格のある者は、被相続人と一定の身分関係があれば、当然に被相続人の死亡によって相続人になります。
しかし、例外として相続人となる者が、被相続人を殺害するなど相続欠格事由(民法第891条)に該当する場合には「相続欠格」となり被相続人の意思とは関係なく自動的に相続人としての地位を失い相続することができなくなります。
また、被相続人が相続廃除の申立てを家庭裁判所に行い、その申立てが認められた場合(民法第892条)や遺言で廃除の意思表示を行い遺言執行者が遺言に従い廃除を申立て、申立てが認められた場合(民法第893条)には「相続廃除」となり、相続人としての地位を失い相続することができなくなることがあります。
Ⅰ 相続欠格
相続欠格とは、被相続人の意思で行われる相続廃除の場合と異なり、一定の事由がある場合に相続権を自動的に失うことをいいます。
1.相続欠格事由
①故意に被相続人又は先順位もしくは同順位の相続人を殺害し、又は殺害しようとして刑を受けた者
②被相続人が殺害されたことを知りながら、それを告訴・告発しなかった者
③詐欺又は脅迫によって、被相続人が遺言をし、撤回・取消・変更することを妨げた者
④詐欺または脅迫によって被相続人に遺言をさせ、撤回・取消・変更をさせた者
⑤被相続人の遺言書を偽造、変造、破棄、隠匿した者
※1相続欠格事由③④⑤は、被相続人の遺言行為(相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈、認知などを内容とするもの)に対する違法な干渉行為が該当します。
※2相続欠格事由全体をとおして、それぞれの欠格事由に該当する故意のほかに、それによって相続上の利益を得る目的がなければ欠格者とされず、いわゆる二重の故意が必要とされます。
2.相続欠格の効果
相続欠格事由に該当する者は何らの裁判手続や意思表示も必要とせず、法律上当然に相続権を失うことになります。
欠格者となると同時に受遺者としての資格も失うことになりますので、遺贈を受けることもできなくなります。
なお、相続欠格者は代襲原因にあたるので、欠格者の子は代襲相続することができます。(民法第887条第2項)
Ⅱ 相続人廃除
相続人廃除は、被相続人が、家庭裁判所に、相続人廃除の申立てを行うか、遺言書で廃除の意思表示を行い、その遺言執行者が申立てを行い、申立てが認められれば、当該相続人の相続権を剥奪することができます。
ただし、相続人の相続権を奪うというものであることから、単に仲が悪いといった理由では相続人の廃除を行うことはできません。
相続人廃除の制度によって相続権を剥奪することができるのは、遺留分をもつ推定相続人だけですので、兄弟姉妹が推定相続人の場合には、遺言書を作成して相続させないことにすることで目的が達成できます。
1.相続人廃除事由
①被相続人に対する虐待もしくは重大な侮辱を加えたとき
「虐待」とは被相続人の肉体や精神に苦痛を与えることをいい、「重大な侮辱」とは被相続人の名誉や自尊 心を著しく害することをいいます。
②推定相続人にその他の著しい非行があったとき
「著しい非行」とは、虐待や侮辱と同程度の非行をいいます。
※家庭裁判所はこれらの事由があったとしても必ず相続人の廃除を認めるという訳ではなく、慎重に審判を行う傾向にあるため、相続人の廃除が認められた事例は多くはありません。
2.相続人廃除の手続き
①「推定相続人廃除の審判申立書」を被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に提出し、審判を受けます。
②推定相続人廃除の審判が確定した場合、申立人は審判確定の日から10日以内に「推定相続人廃除届」を市区町村に提出しなければなりません。
これにより相続人廃除者の戸籍には、その旨が記載されます。
※遺言による場合の①②の手続は、遺言執行者が行います。
相続廃除の審判が確定した場合であっても、被相続人の気が変われば、「推定相続人廃除の取消審判申立書」を家庭裁判所に提出することができます。
3.相続人排除の効果
相続人廃除の審判が確定すると、被排除者である相続人は直ちに相続権を失います。
相続人廃除は代襲原因にあたるので、排除者の子は代襲相続することができます。(民法第887条第2項)
また、欠格者になると受遺者としての資格も失いますが(民法第965条)、排除者には同条の準用がないことから、受遺者になることができます。